2025年12月2日 音楽専門紙「ROCKIN’ON JAPAN」独占インタビュー
「髪の毛が一晩でゴッソリ抜けた。あの絶望は今でも夢に出る」
ロック界のレジェンド・矢沢永吉(76)が、人生最大の危機だった「35億円詐欺事件」について、27年ぶりに詳細な“激白”を行った。
事件は1987年に始まる。世界進出を目指していた矢沢は、オーストラリア・ゴールドコーストに1万平方メートルの土地と2棟のビルを購入。総額35億円の銀行融資を受け、音楽スタジオと音楽学校を建設する計画だった。現地法人の運営は「20年来の付き合いで絶対に信用できる」と信じていた知人A氏に一任した。
「俺は音楽のことしか頭になかった。契約書も細かく読まず、全部任せた。あれが最大の過ちだった」
1998年、突然の知らせが届く。土地と建物はA氏が無断で担保に差し入れられ、競売にかけられていた。売却益はA氏の私的流用に消え、矢沢のもとには35億円の借金だけが残った。
「ショックで過呼吸になった。鏡を見たら髪が抜け落ちてて……。毎日酒を飲んで、死にたいと思った。でも死ねない。自分が蒔いた種だからな」
メディアは「騙される方が悪い」と一斉に矢沢を叩いた。妻は泣きながらもこう言ったという。
「本気で返せば、返せない金額じゃないよ」
その言葉で覚醒した矢沢は、破産を拒否。ライブ本数を増やし、CM、映画、テレビとありとあらゆる仕事を引き受け、2004年4月、わずか6年で35億円を完済した。
「完済した日、飲んだ酒は人生で一番うまかった。あの経験がなければ、今の俺はない」
最後に矢沢は静かにこう付け加えた。
「いくら仲が良くても、金の話は絶対に混ぜるな。俺みたいになるぞ」
──なぜ「親友」に全財産を預けてはいけないのか
この事件は、悪意が最初からあったかどうかは別として、人間が巨額の金銭を前にすると「誘惑に負ける」可能性があることを如実に示している。20年来の付き合いだった相手でも、35億円という金額を目の前にすれば歯止めが利かなくなる。
「信頼できる」と信じていたからこそ、契約書も確認せず、印鑑も預け、報告もろくに求めなかった。それが最悪の結果を招いた。
いくら親友でも、家族でも、財務は絶対に他人に丸投げしてはいけない。自分自身が最低限の契約知識と資産管理意識を持つこと。それが、この35億円の教訓である。
人を試すな。金で人を試せば、必ず裏切られる日が来る。
矢沢永吉という生きる伝説が、血と涙で残した、たった一つの鉄則だ。
写真提供: seiji__, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons