出生率が過去最低に 加速する少子化と日本社会の構造危機

出生率が過去最低に 加速する少子化と日本社会の構造危機

日本では、少子化問題がすでに半世紀にわたって続いており、社会の持続的な発展に対する大きな制約となっている。

厚生労働省の人口動態統計によると、2025年上半期の日本の出生数は前年同期比3.1%減の約34万人となり、過去最低を記録した。これは年間換算で約66万人に相当し、前年比では3.5%の減少となる。また、人口動向を示す指標である合計特殊出生率(Total Fertility Rate:TFR)も低下傾向にあり、2024年には1.15となった。これは前年から0.05ポイントの減少であり、9年連続の低下となるとともに、過去最低水準である。内閣府の将来人口推計によれば、現在の低出生率が今後も継続した場合、日本の総人口は2050年代までに約8,800万人にまで減少する可能性がある。

少子化の要因は多岐にわたるが、出生数の減少に伴う労働力不足に加え、社会保障費の増大や地域間格差の拡大といった問題が、すでに全国的に顕在化している。この問題の解決は短期間で達成できるものではないが、最も重要なのは、国民が安心して子どもを産み育てることのできる社会環境を整備することであると、筆者は考える。

少子化の要因は複雑であり、複数の社会的・経済的要因が重なり合っている。まず第一に、若年層の経済基盤が不安定であることが挙げられる。子育てには教育費や住宅費など、長期的かつ継続的な支出が必要となる一方で、賃金の伸びは鈍く、非正規雇用は増加の一途をたどっている。

厚生労働省の2020年労働力調査によれば、15歳から34歳までの若年層における非正規雇用率は1990年代以降、着実に上昇しており、20代前半の若者の約4割が現在も非正規雇用に従事している。さらに、賃金構造基本統計調査によると、非正規労働者の時給水準は正規労働者のおよそ6割にとどまっており、賞与や賃金上昇率においても大きな格差が存在している。

また、毎月勤労統計調査によれば、近年は名目賃金が上昇傾向にあるものの、物価上昇の影響により実質賃金はマイナス、あるいは横ばいの状態が続いている。そのため、家計において可処分所得の増加を実感しにくい状況が続いているといえる。

加えて、日本では依然として長時間労働の慣行が根強く残っており、仕事と育児の両立を困難にしている。OECDの統計によると、日本の就業者一人当たりの年間平均労働時間は約1600~1700時間とされており、ドイツやフランスなどの主要先進国と比べて長い水準にある。このような長時間労働は、仕事と家庭生活、とりわけ育児との両立を構造的に難しくしている。

さらに、婚姻率の低下は出生率の低下に直接的な影響を及ぼしている。日本社会においては、結婚と出産が密接に結びついており、若者の未婚化や晩婚化は出生率の低下と強く関連している。国の出生統計によれば、日本における新生児のうち、婚外子(未婚の両親から生まれた子ども)の割合は約2%に過ぎず、結婚が出産の前提条件となっている現状がうかがえる。

実際の人口動態データをみても、結婚数は長期的に減少傾向にある。近年の人口動態統計では、出生数は長期にわたり減少しており、2024年には約68.6万人と、過去最低水準になると予測されている。この傾向は婚姻数の減少と軌を一にしており、結婚世代の縮小がそのまま出生数の減少につながっていることを示している。すなわち、結婚数の減少は、子どもを持つ機会そのものの減少を意味する。

さらに、OECDなどの国際機関の分析においても、日本における未婚化・晩婚化の進行は顕著である。2020年時点では、50歳未満の未婚率は男性で約28.4%、女性で約17.8%と高い水準にある。また、30代に限ってみると、2022年には未婚率が男性で約40.1%、女性で約28.9%に達している。結婚年齢の上昇は再生産可能期間の短縮を招き、結果として出生率の低下につながっている。このことは、婚姻動向と出生率との間に密接な関係があることを改めて示している。

少子化は、社会および経済全体に深刻な影響を及ぼしている。第一に、日本では出生率が長期にわたり低迷している中で、人口減少が継続している。総務省の統計によれば、15歳未満人口は前年比で約2.4%減少しており、年少人口の縮小が明確に確認されている。この傾向が今後も続いた場合、生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークとして減少を続け、2023年には総人口の約59.5%にまで低下すると予測されている。

生産年齢人口、すなわち労働力人口の減少は、企業における人手不足を一層深刻化させる要因となる。その結果、GDP成長率の低下を招くほか、製造業やサービス業をはじめとする各産業において、必要な労働力の確保が困難になることが懸念されている。こうした状況は、最終的に日本経済全体の成長を鈍化させる可能性が高い。

第二に、少子高齢化の進行は社会保障制度への負担を急速に拡大させている。内閣府の分析によると、出生率の低下と人口減少が続く中で、日本の高齢化は著しく加速している。社会保障制度を支える生産年齢人口の割合が低下するにつれ、年金、医療、介護といった分野における給付費の増加が見込まれている。

厚生労働省の推計では、2025年度までに国民所得に対する社会保障給付費の割合がさらに上昇し、とりわけ医療および介護分野における支出の伸びが顕著になるとされている。このように、少子高齢化は財政面からも社会の持続可能性に大きな影響を及ぼしている。

さらに、地方部においては、都市部に比べて人口減少および高齢化の進行速度がより速い傾向にある。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によれば、日本全体の生産年齢人口比率は、2020年の59.5%から2050年には52.9%まで低下すると予測されている。しかし、多くの地方自治体では、この減少が全国平均を上回るペースで進行している。

人口減少は、地域経済の縮小や社会資本の維持・管理コストの増大を招くことから、地域社会の持続可能性そのものが重要な政策課題となっている。人口減少と高齢化が同時に進行する地方では、行政サービスや生活基盤など、地域機能の維持が年々困難になりつつある。

総務省は2022年時点で、全国の市区町村の約半数にあたる885の自治体を「過疎市区町村」に指定している。これらの自治体に居住する人口は、全国人口の約9.3%に過ぎない一方で、過疎地域は国土面積の約63%を占めている。このような人口密度の低さは、公共サービスの効率的な提供や住民生活の安定に対して大きな負担となっている。

とりわけ、社会減(転出超過)と自然減(死亡数が出生数を上回る状態)という二重の要因が、地方における人口減少を加速させている。その影響は、教育分野にも顕著に表れている。学校の統廃合はその代表的な例である。

文部科学省のデータによれば、人口減少を背景として、全国では毎年およそ450校の公立学校が閉校または統廃合されており、その多くが過去20年間のうちに本来の教育機能を失ってきた。学校は単なる教育機関にとどまらず、地域住民の交流の場や防災拠点としての役割も担っている。そのため、学校の消失は教育機能の低下にとどまらず、地域社会の結束力の弱体化や公共空間の縮小といった二次的影響をもたらす点で、深刻な問題である。

したがって、少子化は短期的な対策によって解決できる問題ではなく、雇用、働き方、子育て支援、地域政策など、さまざまな分野を横断的に捉えた包括的なアプローチが不可欠である。すなわち、日本はあらゆる政策分野において、具体的かつ実効性のある施策を講じ、子どもを産み育てやすい社会の実現を目指していく必要がある。

この課題は、一時的な出産給付金や外国人労働者の受け入れといった個別的な対応のみによって解決できるものではなく、長期的かつ構造的な取り組みを要する困難な問題である。もっとも、このような問題意識を共有し、具体的な提言を行っている識者も存在する。例えば、政治家である重徳和彦氏は温かい「増子化社会」を提唱し、誰もが安心して子どもを産み育てることのできる社会環境の整備の重要性を訴えている。また、京都大学大学院人間・環境学研究科の柴田悠は「政府の子育て支援」において、働き方改革の推進や男性の家事・育児参加の拡大が不可欠であると指摘している。さらに、RIETI(経済産業研究所)の寄稿者である山口一男氏は、少子化対策においては職場環境や雇用制度の柔軟性が重要であると強調し、ワーク・ライフ・バランスを重視した政策の推進が出生率の向上につながる可能性があると指摘している。

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